エアートンネル・プロジェクト
ステートメント

 エアートンネルは、フラットに重なった布の中を潜り、布の隙間を通り抜けるときに出来るその人だけのトンネルだ。建物のフロアでは違う階にいる人とぶつかることはない。しかし、エアートンネルでは別の層にいる人と隣り合い、接触する。見えない相互の触発、コミュニケーション、遊び、気配、うごめきがある。同じ空間に居るのに、布を隔てて異なる世界が共存する。布の表面には裏があり、二つの世界を分け隔てている。いつもとは違う出会い方がある。

 エアートンネルは重度発達障害児や中枢性疾患の現場に通っていた頃、作られたものだ。自明だと思っていた重さ、光、湿度、奥行き、あるいは歩行、寝返り、まばたき、首のすわりなど、あらゆる行為する身体に麻痺のある子供にとって、世界はどこにあるのだろう?異なる次元からの微かな感触をたよりに、何でもない出来事に近づく。何でもないことが出来事なのだ。その感触に接近するために、触覚の想像力をもっと押し広げたようなものが、エアートンネルだ。

 これまで一般の展覧会で、新しい感覚を促すアートとして発表しながら、発達障害児の施設などで療育や福祉を含めてアプローチしてきた。エアートンネル・プロジェクトは、それぞれの経験のひろがりを含めたプロダクトとして、より多様な文化と発達の豊かさを融合するプラットフォームを展開していく。布の肌合いや色味、継ぎ接ぎ、重さなどの「感じ」、また穴の位置や動線などの体験をデザインするところに、リハビリテーションとアートが恊働する新しい装置としてのエアートンネルがある。

大崎晴地 2017.3 

このウェブサイトは、東京都、アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、特定非営利活動法人Art’s Embraceが主催する「TURN」のプロジェクトの一環として制作しました。